フラワーナイトガール ネリネSS「結成!マーメイド劇団」 スプリングガーデン… 世界を襲う「害虫」と 人々を護る「花騎士(フラワーナイト)」が日夜戦い続ける、 過酷ながらも美しい世界。 討伐任務や鍛錬で忙しい日々を送る彼女達だが 今日は久しぶりの休日で ブロッサムヒルのスイーツ店に集い、 ガールズトークに華を咲かせる3人の花騎士がいた。 ネリネ「こ…このショートケーキ、すっごく美味し〜〜!!」 ビオラ「わたしのチーズケーキも     あまくておいしいですよ、ネリネちゃん!     一口食べてみますか?」 カルセオラリア「えへへ、気に入ってもらえて良かったです。         あ良かったら おかわりもどうぞ!」 ネリネ「で、でも本当に     ご馳走になっちゃっていいの、カルセオラリアちゃん?」 カルセオ「気にしないでください!      わたくしからお誘いしたんですし、      お二人に お願いしたいこともありますから」 ビオラ「ふにー?おねがい…ですか?」 カルセオ「はい。実はウィンターローズの外れに      害虫被害で家族をなくした子ども達が集まる      小さな孤児院があるんですが…      今度そこで わたくしの脚本・演出で      演劇をやることになったんです」 ネリネ「へえ〜カルセオラリアちゃんの劇、私も一度見に行ったけど     とっても面白かったもんね!」 ビオラ「どんなお話をやるんですか?」 カルセオ「そこの子ども達が      『人魚姫』の絵本がすごくお気に入りらしいので      今回はそれにしようかと」 ネリネ「わぁ、人魚姫…!」 カルセオ「それでですね…人魚姫役を      是非ネリネさんにお願いしたいんです!」 ネリネ「!?え、ええええっ!?」 カルセオ「そして王子様役は ビオラさんに!」 ビオラ「わ、わたしもですか!?」 カルセオ「先日、だんちょーさまから聞きました。      以前ネリネさんが劇団の客演で      人魚姫役をやって 大好評だったと!」 ネリネ「あ、あれは…///」 カルセオ「その話を聞いた時、インスピレーションが湧いてきたんです!      美しくも儚い人魚姫に扮するネリネさんの姿…      そしてお相手の王子役は      ネリネさんと仲の良い ビオラさんしかいないと!」 ネリネ「で、でもあれ かなり前の話だし…」 ビオラ「やってみましょうよネリネちゃん!」 ネリネ「え、ビ、ビオラちゃん!?」 ビオラ「面白そうじゃないですか!それにわたし、     お芝居ってやったことないから やってみたいです」 ネリネ「う、うーん…」 ビオラ「それに孤児院の子、人魚姫が好きらしいですし。     きっと すっごく喜んでくれますよ?     わたしたちで みんなを笑顔にできちゃいます!」 ネリネ「!!そ、そっか…」」 迷っていたネリネだったが、ビオラの言葉に心を動かされる。 ネリネ「あの…わ、私なんかで良かったら…!」 カルセオ「ありがとうございますー!じゃあさっそくなんですけど      この近くにスタジオを借りてあるんです!      そこに 衣装や大道具を準備してありますし、      魔女役の方も呼んであるので      4人で少し打ち合わせしませんか?」 ネリネ「わ、もう衣装できてるんだ…!」 ビオラ「たのしみですー、にこー♪」 ―――20分後 小奇麗なレンタルスタジオに 3人は揃ってやって来る。 カルセオ「あ、もういらしてたんですね」 ストレリチア「おっそーい!        このストレリチア様をこんなに待たせるなんて        一体どういう了見なの!?」 ネリネ「ストレリチアさん!?」 ビオラ「あ、じゃあ魔女役のひとって…」 スト「は?魔女?    人魚姫の劇をやるって聞いてたんだけど…」 カルセオ「はい、その劇に      ストレリチア様も是非出演して頂きたいんです。      人魚姫に 魔法をかける魔女の役で!」 スト「魔女役!?このストレリチア様が!?    人魚姫役じゃないの!?」 カルセオ「以前芸術祭で見せて頂いた、      ストレリチア様の 磨けば光る演技の才能…      それがネリネさんやビオラさんと合わされば      最高の舞台になると わたくし確信しています!」 スト「ちょちょっと、聞いてないわよ!?」 ネリネ「あ、あのストレリチアさん…     良かったら私 役を譲っても…」 カルセオ「ストレリチアさまっ!!」 カルセオラリアは、 にわかにストレリチアの手を強く握りしめる。 スト「な、なによ急に…」 カルセオ「魔女はとても難しい役です。      滲み出る知性と貫禄、百年以上を生きた老獪さ…      それを演じきるのは スプリングガーデン広しといえど      ストレリチア様にしか出来ないんです!」 スト「!!わ、私にしか…」 カルセオ「この劇には ストレリチア様の      類稀なる才能が必要なんです!どうかお願いします!!」 スト「………し、仕方ないわね そこまで言うなら。    ストレリチア様がいないと 成り立たないんでしょ?」 カルセオ「ありがとうございますー!」 ネリネ「…い、いいのかな。ホントに私がやっちゃって…」 ビオラ「自信もってください!     わたしもネリネちゃんの人魚姫姿みてみたいです、にこー♪」 ネリネ「う、うん…!」 スト「それで 衣装はどこ?」 カルセオ「あ、こちらに!衣装合わせもしたいので      ネリネさん達も着てみてください」 ネリネ「う、うん」 ―――15分後 ビオラ「わぁ〜ネリネちゃん、とっても可愛いです!!」 ネリネは 少し恥ずかしそうにしながらも、 自分の着た衣装に見とれていた。 ネリネ「す、すごくよく出来てるねこれ…     色合いも綺麗だし、尾ひれの鱗の質感とかも…     ビオラちゃんのも 細かい所まで作り込んであって     本当にどこかの国の王子様みたい…!」 ビオラ「こんなお洋服はじめてなので、     なんだか着てるだけで楽しくなっちゃいます、にこー♪」 カルセオ「えへへ〜 驚くのはまだ早いですよ?      こちらもご覧くださいっ!」 カルセオラリアが 背後の暗幕を取り外すと 息を呑む程に美しい、夜の海の背景が現れた。 ネリネ「!?き、綺麗……!!」 ビオラ「ふに〜 ホンモノの海かと思っちゃいました!」 カルセオ「せっかく無理を言って      皆さんに出演してもらうわけですから。      衣装にも大道具にも 手は抜けません!」 ネリネ「衣装や背景に負けないように 頑張らないと…!」 スト「じみっ!地味すぎるわ!」 一足遅れて、着替えを終えたストレリチアが更衣室から出てくる。 ビオラ「わあ、ストレリチアさんも すごく魔女っぽいですー!」 スト「魔女っぽいのはいいけど…    ネリネやビオラと比べて 私だけ黒一色じゃない!」 カルセオ「ストレリチア様!」 カルセオラリアは、すかさずストレリチアに駆け寄る。 カルセオ「素晴らしい着こなしです!      ストレリチア様の溢れ出る知性が      さらに何倍にも 強調されていますよ!」 スト「え?…そ、そう?」 カルセオ「これはわたくしが見た中で、      最高の魔女役になること 間違いなしです!」 スト「……ま、まあ 生まれ持った才能っていうのは    隠しきれないものよね〜」 ネリネ(…ストレリチアさんの扱い、慣れてるなあ…) カルセオ「それじゃ 台本の読み合わせから始めましょうか。      本番まで2週間、皆さんよろしくお願いします!」 ネリネ「2週間…結構短いね」 ビオラ「いっしょに頑張りましょう、ネリネちゃん」 ネリネ「うん…!子ども達に喜んでもらいたいもんね!」 ―――そして2週間後 任務の合間を縫って練習を重ねる忙しい日々は あっという間に過ぎ去り、本番当日。 少女A「人魚姫さん、やっぱりすごく可愛いのかな〜?」 少年A「ていうか、まだ始まんねーの?」 先生「こーら!みんな静かに!」 ネリネ・ビオラ・ストレリチアの3人は ざわつく子ども達を、舞台袖から覗き見ていた。 ネリネ「けけけ結構いっぱいいるんだね…」 ビオラ「ネリネちゃん、緊張してますか?」 ネリネ「う、うん。ちょちょちょっと…」 スト「しっかりしなさいよねネリネ!?    このストレリチア様の代わりに 主役を務めるんだから!」 ネリネ「ががが頑張りますっ…」 ビオラ「あ、はじまりますよ!」 照明が消え、音楽が流れ始めると 子ども達は 水を打ったように静まりかえる。 それに合わせ、ナレーション役のカルセオラリアがゆっくりと語り出す。 カルセオ「昔むかしある所に、6人の人魚の姉妹がいました。      姉妹の中でとりわけ美しい、末っ子のネリネ姫は      いつも人間の世界に憧れていました」 ビオラ「頑張ってください、ネリネちゃん」 ネリネ「うんっ…!」 袖から舞台に出ていったネリネを、 淡いスポットライトの光が照らし出す。 その途端、先ほどまでこわばっていた彼女の面持ちが一変し、 瞬く間に物憂げな『夢見る人魚姫』の表情になる。 ネリネ「ああ…地上にはどんな美しいものや     楽しいことが沢山あるのかしら…」 少女A「わあっ…人魚姫さんきれー」 少女B「ホンモノだー!」 ビオラ「ネリネちゃん さっきまでと別の人みたいです…!」 スト「ふ、ふん、やるじゃない。    プロの劇団で 客演しただけのことはあるわね…!」 幻想的な音楽と背景、 そして完全に役に入り込んだネリネの表情が合わさり、 孤児院の中は まさにおとぎ話の中のような雰囲気に包まれていた。 ネリネ「早く15歳になって、人間の世界を見に行きたいわ…」 カルセオ(流石ですネリネさん、その調子ですっ…!) ―――15分後 スト「ひっひっひ…お前さんの願い、叶えてやるよ」 ネリネ「ほ、本当に!?」 スト「その代わり、お前さんのその美しい声はいただくよ。    そして もしビオラ王子と結婚できなかったら    お前は泡になって消えてしまう。    それでもいいなら、人間の姿にしてやろうじゃないか」 ネリネ「…いいわ。ビオラ王子と一緒にいられるのなら…!」 少女B「だめー人魚姫さん!言うこと聞いちゃだめー!」 少年A「悪い魔女めー!変な格好しやがって!」 スト(こ、このっ…!ストレリチア様に向かって…!!) カルセオ(皆さん、いい演技です…      子ども達も 引き込まれてますよ!) ―――さらに15分後 劇は順調に進み、いよいよクライマックスを迎えていた。 カルセオ「魔法のナイフで、王子の心臓を貫けば人魚に戻れる…      しかしネリネ姫には 愛する王子を突き刺すことなど      どうしても出来ません」 ネリネ「……!!」 ガシャン! 少女B「あーっ!ナイフ捨てちゃだめー!」 少年A「泡になって消えちゃうぞ!?」 ガヤガヤ ざわざわ ビオラ(!?) ネリネ(えっ…?) 少女A「人魚姫さん、死なないで!!」 少女B「王子様、おきてー!」 少女C「誰か人魚姫さん助けてあげて!!」 ワイワイ ガヤガヤ 先生「み、みんな静かにしなさい!」 劇に感情移入しすぎたのか、子ども達の叫び声が止まらない。 カルセオラリアは、 次のナレーションを読むタイミングを完全に失っていた。 スト(ちょ、ちょっと何これ…!) カルセオ(あわわわ、ど、どうしましょう…!?) ネリネ「……」 予期せぬハプニングに 動揺の色を隠せない4人… そんな中ネリネは 何かを決意したような真剣な表情になる。 ネリネ「!!」 ビオラ(ふ、ふにっ!?) 突然ネリネは、ベッドの上で目を閉じるビオラを抱きしめる。 カルセオ(ネ、ネリネさん!?) ネリネ「……!!」 …ちゅっ ビオラ「!!?」 思いを込めた抱擁と、涙を流しながらのキス… ネリネの 予想だにしない行動に圧倒されたのか、 子ども達も一斉に騒ぐのをやめ、固唾を飲んで見守り始めた。 スト(こ、こんなの台本に無いわよ…!?) ビオラ「……ネリネちゃ……ネリネ姫……」 ネリネ「……」 ビオラ「いまの姫のぬくもり…覚えがあります。     もしかして おぼれたわたしを助けてくれたのは…     あなただったんですか?」 ネリネ「……!!」 ネリネは頷くことすら忘れ、 ただ涙をいっぱいに溜めた瞳で ビオラを見つめる。 スト「……」 袖から見守っていたストレリチアは、おもむろに舞台に歩み出る。 カルセオ(ストレリチア様…!?何を…!?) スト「……あたしの負けだよ」 ビオラ「あ、あなたは?」 スト「お前さんのビオラ王子を思う、海よりも深い愛…    それは あたしの魔法をもってしても壊せやしない。    お代は返してやるから、自分の言葉で伝えるんだね…    自分の気持ちをさ」 そう言うとストレリチアは、魔法の杖を一振りする。 ネリネ「!!こ、声が…」 ビオラ「ネ、ネリネ姫!?」 ネリネ「……王子様…ごめんなさい、私…     本当は人間ではないんです。海の中で暮らす人魚なんです」 ビオラ「ふにー!?そ、そうだったんですか…」 ネリネ「でも私…」 ネリネは大粒の涙をポロポロとこぼしながら、ビオラの手を取る。 ネリネ「それでも…王子様のことが、好きなんです…!!」 ビオラ「……!!」 ネリネ「王子様…どうか…     どうか私と、ずっと一緒にいてくださいっ…!!」 目を丸くしたビオラだったが、すぐに満面の笑顔になる。 ビオラ「もっちろんですよ!にこー♪」 ネリネ「!!王子様っ…!!」 スト「話はまとまったようだね」 ストレリチアはにんまり笑うと、もう一度魔法の杖を振る。 スト「ひっひっひ…王子様、これであんたも    海の中で暮らしていけるよ。人魚と同じようにね」 ネリネ「魔女さん…」 ビオラ「ありがとうございますー♪     さあいっしょに行きましょう、ネリネ姫!」 ネリネ「……は、はいっ!」 手を取り合い、舞台袖へ消えていくネリネとビオラ… あっけに取られて見ていたカルセオラリアだったが、 はっと我に返って ナレーションを再開する。 カルセオ「…こ、こうして!      人魚姫と王子は いつまでもいつまでも      海の中で仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」 わああっ パチパチパチパチ 少女A「すっごーい…幸せになったんだ!!」 少女B「ぐすっ、良かった…良かったよぉ 人魚姫さん…!!」 少年A「あの魔女、意外といいとこあんじゃん!」 少女C「王子様、何か途中で変なこと言ってなかった?     ふにー、とか…」 ビオラ「ネリネちゃん、みてくださいー!     すっごい拍手ですよ!!」 ネリネ「はあっ、はあっ…えへへ、良かった…のかな?」 ―――翌日・ブロッサムヒルのスイーツ店にて カルセオ「皆さん、本っっ当にお疲れ様でしたー!」 スト「今日は私のおごりだからね。好きなもの頼みなさい?」 ネリネ「あの、でも…ごめんなさい、カルセオラリアちゃん」 カルセオ「え、何がですか?」 ネリネ「え、だって…勝手に台本と違う演技しちゃったし…」 ビオラ「でもみんな 大喜びでしたよ?」 ネリネ「そ、そうだけど…」 カルセオ「ネリネさん、わたくし…      演劇とは台本が全てではないと思ってます」 ネリネ「…え?」 カルセオ「その場の状況に合わせ、      役者が魂から生まれた台詞を乗せる…      その時 演劇は生きて動き出し、      真の芸術が生まれるのだと わたくしは思います!」 スト「…まあ実際、このストレリチア様まで    釣られてアドリブしちゃうくらいの迫力だったしね…    悔しいけどネリネ!あなたの実力は認めざるを得ないわ」 ネリネ「そ、そんな 褒め過ぎですよぅ…///」 スト「でもあの演技って あの時急に思いついたの?」 ネリネ「あ、思いついたっていうか…私、前から     人魚姫が幸せになれたらいいなーって思ってたんです。     劇の時、すっごく人魚姫になりきってたから     その気持ちと合わさって 気付いたらああいうことを…///」 ビオラ「ネリネちゃん、人魚姫のお話 だーいすきですもんね!     でもあのとき、一瞬ネリネちゃんに     ホントに告白されたような気分になっちゃいました」 ネリネ「!!ビビビオラちゃん…あのあのっ、ごごごめんね!?」 ビオラ「ふにー?なにがですか?」 ネリネ「だってその、急に抱きついたりとか…     キ、キ、キキキキスまでしちゃって…!!」 ビオラ「たしかに ビックリはしましたけど…     全然イヤじゃなかったですよ?にこー♪」 ネリネ「……!!!」 カルセオ「あっ それで皆さん!今日お集まり頂いたのは      一つ提案がありまして」 スト「提案?」 カルセオ「わたくしが見込んだ、皆さんの才能は想像以上でした…      それを この一度だけで終わらせるのは      演劇界にとっての損失です!そこでっ!」 興奮気味に、テーブルを叩いて立ち上がるカルセオラリア。 カルセオ「この4人のチームを『マーメイド劇団』と名付け!      定期的に公演をしていくというのはどうでしょう!?」 ネリネ「マ、マーメイド劇団!?」 スト「フン、いいじゃない。    このストレリチア様の美貌と才能を    世間に知らしめるいいチャンスだわ」 ビオラ「わたしもお芝居、またやってみたいです!     あそうだ、次は団長さんたちにも見てもらうのはどうですか?」 ネリネ「!?だだ団長さんに…!?」 カルセオ「ビオラさん、ナイスアイディアですっ!      実は次回作の構想も既にありまして…      次は ガラッと作風を変えてアクション物です!」 スト「ちょっとカルセオラリア!    次こそ私が主役なんでしょうね!?」 ネリネ「ままま待って、カルセオラリアちゃん!     団長さんに見せるのは 流石に恥ずかしいよ…!!」 生死を賭けた戦いの合間に訪れる 何気ない日々… この時間がいつまでも続くことを、誰もが心のどこかで願っていた。 〜fin〜